「風神雷神図屏風(ふうじんらいじんずびょうぶ)」という絵を見たことがありますか?雷を司る雷神と、風を操る風神が描かれた、日本美術を代表する作品です。この絵を描いたのが、江戸時代初期の絵師・俵屋宗達(たわらや そうたつ)です。

しかし、宗達についての記録はとても少なく、生まれた年も亡くなった年もはっきりしていません。さらに、どんな家に生まれ、どうやって絵を学んだのかも分からないのです。まるで謎の人物ですが、彼の作品は今でも多くの人を魅了し、日本の美術に大きな影響を与えました。

今回は、そんな俵屋宗達がどんな人だったのかを、彼の生涯や作品を通じて分かりやすく解説していきます!

俵屋宗達はどんな人?何をした人?生涯や身分

俵屋宗達は、江戸時代初期に活躍した絵師であり、日本美術の歴史において重要な人物です。しかし、その生涯に関しては多くの謎が残されています。

彼がどんな人物だったのか、その身分や生涯の大まかな流れを解説していきます。

俵屋宗達は江戸時代初期に活躍した絵師で琳派の祖

俵屋宗達は、江戸時代初期に京都で活躍した絵師です。琳派(りんぱ)という日本独自の芸術スタイルを築いたことで知られています。

琳派とは、華やかで装飾的な絵を特徴とする流派で、宗達の後に尾形光琳(おがた こうりん)や酒井抱一(さかい ほういつ)といった絵師がこのスタイルを受け継ぎました。

宗達の作品は、金箔(きんぱく)を背景に使ったり、「たらしこみ」という独特の技法を用いたりして、今までになかった斬新な表現を生み出しました。「風神雷神図屏風」や「蓮池水禽図(れんちすいきんず)」などが有名で、現在も日本各地の美術館や寺院に大切に保存されています。

俵屋宗達の生涯と生没年は不詳:生まれは京都か

宗達はいつ生まれたのか、そしていつ亡くなったのかがはっきりしていません

研究者の間では、1570年頃(安土桃山時代)に生まれ、1640年代(江戸時代初期)に亡くなったのではないかと考えられています。生まれた場所も記録がありませんが、京都で「俵屋」という絵屋を経営していたことから、京都出身の可能性が高いとされています。

彼がどのようにして絵を学び、どんな経緯で有名になったのかも、詳しくは分かっていません。しかし、宗達の絵には確かな技術と独創性があり、特別な才能を持っていたことは間違いありません。

俵屋宗達の身分は町衆:法橋の位を授かる異例の出世

宗達は、もともと町衆(ちょうしゅう)と呼ばれる京都の裕福な町人階級の出身だったと考えられています。しかし、彼の絵の才能が高く評価され、1630年頃には「法橋(ほうきょう)」という特別な位を与えられました。

法橋とは、もともと僧侶に与えられる位でしたが、江戸時代になると医師や絵師、学者などの優れた人物にも授けられるようになりました。宗達は町人出身ながらも、この名誉ある位を受けたことで、当時の芸術家としての地位が非常に高かったことが分かります。

俵屋宗達と本阿弥光悦角倉素庵との関係

宗達の成功には、本阿弥光悦(ほんあみ こうえつ)という芸術家の存在が大きく関わっています。光悦は、書道、陶芸、工芸など、さまざまな分野で活躍した芸術のプロデューサーのような人物でした。

宗達と光悦は何度も共同制作を行い、宗達が絵を描き、光悦が書を担当する作品を多く残しました。

また、宗達は角倉素庵(すみのくら そあん)という儒学者とも交流がありました。素庵は学問や文化に深い関心を持つ人物で、宗達の才能を認め、支援していたと考えられます。このように、宗達は優れた文化人たちと交流しながら、自分の芸術を磨いていったのです。

俵屋宗達はなぜ歴史に名を残したのか?その理由とは

宗達が歴史に名を残した理由は、彼が日本美術の発展に大きな影響を与えたからです。彼の作品には、それまでの日本画にはなかった斬新な表現が取り入れられていました。特に、「風神雷神図屏風」は、そのダイナミックな構図と力強い筆づかいで、見る人を圧倒します。

また、宗達の技法は後の琳派の絵師たちに受け継がれ、尾形光琳や酒井抱一といった画家が彼のスタイルを発展させました。宗達の作品は単なる絵画ではなく、後世の芸術家たちのインスピレーションの源となり、日本美術の歴史に深く刻まれたのです。

俵屋宗達はどんな人?代表作や技法を徹底解説

俵屋宗達は、数多くの美しい作品を残しました。特に「風神雷神図屏風」などの代表作は、今でも多くの人に愛されています。

宗達の作品に使われた独特な技法や、その影響を受けた琳派の画家たちについても触れながら、彼の作品の魅力を深堀りしていきます。

風神雷神図屏風は俵屋宗達の代表作!その魅力とは

俵屋宗達の代表作といえば、やはり「風神雷神図屏風(ふうじんらいじんずびょうぶ)」です。この作品は、金色の背景に風神と雷神が描かれた二曲一双(にきょくいっそう)の屏風絵で、迫力のある構図が特徴です。

風神は画面の右側に描かれ、緑色の肌をした神様が大きな袋を抱え、強風を吹かせています。一方、雷神は左側に描かれ、太鼓を背負いながら雷を鳴らしています。この二神が向かい合うことで、まるで今にも動き出しそうな臨場感が生まれています。

この作品の魅力は、シンプルな線と大胆な構図にあります。宗達は、従来の日本画のような細かい描き込みをせず、シルエットのようなデザインで神々を描きました。その結果、現代のアートにも通じる洗練された美しさを持つ作品となりました。

この風神雷神図屏風は、京都の建仁寺(けんにんじ)に所蔵されています。本物は現在、京都国立博物館に保管されており、建仁寺には高精細なレプリカが展示されています。実際に見ると、その迫力と芸術性に圧倒されること間違いありません。

俵屋宗達の技法「たらしこみ」とは?琳派の特徴を解説

宗達の作品の特徴のひとつが、「たらしこみ(たらし込み)」という技法です。これは、先に塗った絵の具が乾かないうちに、別の色を上から重ねることで、自然なにじみやぼかしを生み出す技法です。

たらしこみの効果により、まるで水が流れるような独特の質感が生まれます。例えば、「風神雷神図屏風」の背景にある黒い雲の部分にもたらしこみが使われており、雲が風になびいているような自然な動きを表現しています。

この技法は、後に琳派の絵師たちにも受け継がれました。尾形光琳や酒井抱一も、宗達のたらしこみ技法を参考にしながら、より洗練された琳派のスタイルを確立していきました。

現在でも、日本画の技法としてたらしこみは受け継がれており、宗達が生み出した表現の影響の大きさが分かります。

「鶴下絵三十六歌仙和歌巻」や「蓮池水禽図」などの名作紹介

俵屋宗達の作品は「風神雷神図屏風」だけではありません。他にも多くの名作が残されています。その中でも特に有名なものを紹介します。

① 鶴下絵三十六歌仙和歌巻(つるしたえ さんじゅうろっかせん わかまき)
この作品は、俵屋宗達が鶴の絵を描き、本阿弥光悦が和歌を書いた合作です。14メートルもの長さの巻物に、宗達は自由に飛び回る鶴を描き、その間に光悦が三十六歌仙(日本の有名な和歌詠みたち)の和歌を書き入れました。

まるでジャズの即興演奏のように、書と絵が見事に融合した作品です。

② 蓮池水禽図(れんちすいきんず)
宗達は、金箔を多用した装飾的な絵だけでなく、水墨画にも優れた才能を発揮しました。その代表作が「蓮池水禽図」です。

この作品では、水面に咲く蓮の花と、そこに浮かぶかいつぶり(鳥)が、たらしこみ技法を使って描かれています。繊細な筆づかいと、淡い墨の表現がとても美しい作品です。

宗達の作品は、どれも独特の個性を持っており、琳派の発展に大きく貢献したことが分かります。

俵屋宗達の作品が所蔵されている美術館や寺院一覧

宗達の作品は、日本各地の美術館や寺院で見ることができます。代表的な所蔵先を紹介します。

  • 建仁寺(京都):「風神雷神図屏風(レプリカ)」
  • 京都国立博物館:「風神雷神図屏風(本物)」
  • 静嘉堂文庫美術館(東京):「源氏物語関屋澪標図屏風」
  • 厳島神社(広島):「平家納経(宗達による修復)」

実際に美術館を訪れると、宗達の作品の迫力や繊細さを肌で感じることができます。宗達の絵は写真や映像で見るよりも、実物のほうが何倍も美しく、力強さが伝わってきます。

俵屋宗達の影響を受けた琳派の画家たちとは?

宗達の画風は、後の琳派の絵師たちに受け継がれました。代表的な画家として、以下の人物が挙げられます。

  • 尾形光琳(おがた こうりん):琳派の代表的な絵師。宗達の「風神雷神図屏風」を模写し、その裏に「夏秋草図屏風」を描きました。代表作に「燕子花図屏風(かきつばたずびょうぶ)」があります。
  • 酒井抱一(さかい ほういつ):江戸時代後期に活躍した琳派の画家。光琳の作品を研究し、宗達の作風を受け継ぎました。
  • 鈴木其一(すずき きいつ):酒井抱一の弟子で、琳派の技法をさらに発展させました。

琳派の特徴は、代々の師弟関係で受け継がれるものではなく、宗達の作品に感銘を受けた画家たちが、そのスタイルを独自に学びながら発展させていったことです。こうして、琳派は日本美術の中でも独特の流派として確立されました。

総括:俵屋宗達はどんな人か解説まとめ

最後に、本記事のまとめを残しておきます。

  • 俵屋宗達は江戸時代初期の絵師で、琳派の祖とされる。
  • 彼の生涯には多くの謎があり、生没年や出自は不明。
  • 京都で「俵屋」という絵屋を営み、公家や武家からの注文を受けていた。
  • 独特の「たらしこみ」技法を用いた装飾的な絵が特徴。
  • 代表作「風神雷神図屏風」は、日本美術史上の名作で、建仁寺に所蔵されている。
  • 琳派の画風は、尾形光琳や酒井抱一によって受け継がれた。
  • 宗達の作品は、現在も京都国立博物館などに所蔵され、多くの人に愛されている。