私たちが理科の授業や新聞、辞書で目にする「侵食(しんしょく)」と「浸食(しんしょく)」。
どちらも自然現象を表す用語ですが、書き方が違うことで「どちらが正しいの?」「使い分けはあるの?」と疑問に思ったことがある方も多いはずです。
この記事では、侵食と浸食の違いや言葉の意味、理科での正式な表記、日常表現での使い分けについて、わかりやすく徹底解説します。
※結論、理科の用語としては「侵食」を使ってください。
侵食と浸食の違い!意味や理科で正しいのはどっち?

「しんしょく」と読む「侵食」と「浸食」は、どちらも自然が地形を削る現象を指しますが、使われる場面や意味に微妙な違いがあります。ここでは、それぞれの言葉の意味や使い方、例文、そしてどのように使い分けるべきかをわかりやすく解説します。
侵食と浸食の意味の違い比較表
まずは、「侵食」と「浸食」の違いを一目で把握できるよう、比較表で整理しました。
項目 | 侵食 | 浸食 |
---|---|---|
読み方 | しんしょく | しんしょく |
使用される分野 | 地学・理科・地理・ビジネスなど | 一般用語・新聞・辞書など |
文字の意味 | 「侵」=おかす(他の領域に入り込む) | 「浸」=しみこむ(水がしみる) |
地理・理科での正式表記 | 教科書では「侵食」が正式(文科省指定) | 教科書では用いられない |
主な使われ方 | 風や水、氷などによる広い意味での削る作用 | 主に水による削る作用 |
辞書や新聞での表記 | 一部辞書にあるが主流ではない | 多くの辞書や新聞で一般的に使用される |
比喩的用法(市場、領土など) | よく使用される | 使用されない |
侵食の意味とは?理科やビジネスでの使われ方
「侵食」とは、もともと「侵す(おかす)」という意味を持ち、他の領域にじわじわと入り込んで損なうことを指します。地理や理科では、雨や川の水、風や氷河など自然の外的要因によって土地や岩石が削られていく現象のことを「侵食作用」といいます。
たとえば、川の流れによって山が削られて谷ができる、波の力で海岸が後退する――こうした現象すべてを「侵食」と呼びます。この「侵食」は風や氷など、水以外の要因も含まれるため、より広範な意味合いを持つのが特徴です。
また、ビジネスや社会の場面では、「市場のシェアを侵食する」「他社の勢力が徐々に侵食している」など、抽象的な影響力の拡大を示す比喩表現としても使われます。理科用語だけでなく、日常のニュースや会話にも登場する重要な言葉です。
浸食の意味とは?辞書や新聞での用例
一方の「浸食」は、「浸す」「しみこむ」という意味を持つ「浸」の字を使っており、特に水の作用によって土地や岩石が削られることを表す際に使われることが多い言葉です。
国語辞典や新聞では、「浸食」という表記が主流となっており、「波が岩を浸食する」「雨水の浸食によって地形が変化した」といった形で使われています。水に関わる現象に限定したいときには、この表記が自然です。
また、漢字の意味合いから「浸透(しんとう)」や「浸水(しんすい)」といった言葉と同様、水がじわじわと広がっていくイメージが強いため、「水だけに焦点を当てる場合に適した用語」といえるでしょう。ただし、教科書や地学の専門用語としては「侵食」が正式に採用されています。
侵食を使った例文5選
「侵食」という言葉がどのような場面で使われるのか、例文を通して確認してみましょう。ここでは自然現象と比喩的な用法の両方を紹介します。
- 強い波の影響で、海岸線が年々侵食されている。
- 河川の増水によって、山間部の斜面が急速に侵食された。
- 氷河による長年の侵食で、U字谷と呼ばれる地形が形成された。
- 外資系企業の進出により、国内企業のシェアが侵食されている。
- デジタル化の波が出版業界を侵食し始めている。
- 経済不況が市民生活を徐々に侵食している。
これらの例からも分かるように、「侵食」は自然現象にも社会現象にも使える幅広い言葉です。
浸食を使った例文5選
続いて、「浸食」の使い方を例文で紹介します。こちらは特に水に関する現象を中心に用いられるケースが多い点に注目しましょう。
- 長年の波の浸食によって、海食崖が形成された。
- 雨水の浸食で、農地の一部が崩れてしまった。
- 台風の影響で山道が浸食され、通行止めになった。
- 森林伐採によって土壌がむき出しになり、浸食が進んだ。
- 河川の流れによる浸食で、川底が深く掘られている。
- 土壌の浸食を防ぐために植生による保護が行われている。
「浸食」はこのように、具体的な水の動きと結びついた形で使われることが多く、新聞やニュースでの使用頻度も高い表記です。
侵食と浸食の違いも後に:どちらが正しい?教科書・辞書・専門用語

「侵食」と「浸食」はどちらも正しい日本語ですが、使われる分野や文脈によって推奨される表記が異なります。ここでは、学校教育や専門分野、辞書や新聞などにおける表記の違いを明らかにし、どの場面でどちらを使うべきかを整理していきます。
理科で正しいのは「侵食」?教科書が「侵食」を使う理由
学校教育、特に理科や地理の教科書では、「しんしょく」は「侵食」という漢字で表記されています。これは、文部科学省が定める『学術用語集 地学編(1984年)』において、正式な表記を「侵食」として定めているためです。
1980年代以前は、「浸食」が教科書でも使われていましたが、昭和59年度の学術用語集を機に、全国の教科書が「侵食」に切り替わりました。「削る」「おかす」という意味を持つ「侵」の字が、自然による地形の変化をより正確に表しているとされるのがその理由です。
つまり、理科や地理の文脈で正確さを求めるなら「侵食」が正解です。
辞書では「浸食」が優勢?表記ゆれが起きる背景
一方で、辞書では「浸食」の表記が今も広く使われています。たとえば、以下のような国語辞典では「浸食」が主見出しとなっているケースが多く見られます。
- 新明解国語辞典
- 大辞泉
- 三省堂国語辞典
- 集英社国語辞典
これらの辞典では、「浸食」に「侵食とも書く」といった注記が添えられており、両方の表記が容認されている状態です。
これは、一般社会における使用実態を重視する辞書編集の方針によるもので、厳密な学術表記と一般表記が並存していることが、表記ゆれの原因になっているのです。
新聞や一般書籍ではどちらが使われている?現場の判断基準
新聞記事や一般の出版物では、「浸食」がよく使われています。たとえば、毎日新聞や読売新聞の表記ガイドでは、「海岸浸食」「浸食作用」など、「浸」の表記が基本とされています。
これは、「浸」の字の方が視覚的に水を連想させやすく、読者にとって直感的に理解しやすいからです。また、新聞には読みやすさや親しみやすさが求められるため、専門用語としての「侵食」よりも「浸食」の方が適していると判断されているのです。
つまり、新聞や日常的な文章では「浸食」が主流ということになります。
「侵食作用」と「浸食作用」どっちを使うのか
専門分野、特に地学や土木工学の世界では、圧倒的に「侵食作用(erosion)」という表現が使われています。
たとえば:
- 土木学会の用語辞典
- 地形学事典(文部科学省)
- 地盤工学用語辞典
これらの文献では、「侵食」が統一された表記となっており、「風食」「氷食」「波食」など、さまざまな自然力による削る働きすべてを「侵食作用」と定義しています。
「浸食」は、水による作用に限定されがちですが、実際の自然現象では風・氷・化学的溶解など多様な要素が関与するため、正確性を求めるなら「侵食作用」が推奨されます。
「侵食」「浸食」に関連する地理・地学用語
「しんしょく」に関係する用語には、以下のようなものがあります。それぞれの語が「侵食」「浸食」と深く関わっているため、あわせて理解しておくとより専門的な知識が深まります。
用語 | 意味・解説 |
---|---|
河食 | 河川による地形の侵食。渓谷などの形成に関与。 |
波食(海食) | 波による海岸線の侵食。波食崖や波食台などの地形が形成される。 |
風食 | 風が運ぶ砂などによって地形が削られる現象。砂漠地帯で多く見られる。 |
氷食 | 氷河の流れによって岩盤が削られる作用。U字谷やフィヨルドの成因となる。 |
磨食 | 砂礫が岩盤にぶつかり、物理的に磨り減らす現象。 |
溶食 | 雨水や地下水による岩石の溶解。特に石灰岩でカルスト地形を形成する。 |
侵食谷 | 長年の侵食作用によってできた深い谷。 |
海食崖 | 波の作用によって海岸が削られ形成された崖。 |
これらの用語は、地形の変化や災害対策、土木工事などとも密接に関わっており、「侵食」という概念の広がりを理解するうえで欠かせないキーワードです。
総括:侵食と浸食の違いまとめ
最後に、本記事のまとめを残しておきます。
項目 | 侵食 | 浸食 |
---|---|---|
読み方 | しんしょく | しんしょく |
使用される分野 | 地学・理科・地理・ビジネスなど | 一般用語・新聞・辞書など |
文字の意味 | 「侵」=おかす(他の領域に入り込む) | 「浸」=しみこむ(水がしみる) |
地理・理科での正式表記 | 教科書では「侵食」が正式(文科省指定) | 教科書では用いられない |
主な使われ方 | 風や水、氷などによる広い意味での削る作用 | 主に水による削る作用 |
辞書や新聞での表記 | 一部辞書にあるが主流ではない | 多くの辞書や新聞で一般的に使用される |
比喩的用法(市場、領土など) | よく使用される | 使用されない |