昨今の公立中学の生徒を見ていると、学力で見た時の上位40%と下位60%に大きな大きな壁があると思わざるを得ないです。
そして、その格差は年次が上がるごとに開き、正直その格差を埋めることが難しくなっています。
だから昨今の教育現場では、「子供が二極化している」としばしば言われます。できるか・できないかの2つで、普通という属性が消滅している時代ということです。
では、下位60%ぐらいにいる学力の子は逆転できないのでしょうか?
中学生:下位60%の生徒の逆転が厳しい理由
上位40%と下位60%がまさに分断ラインなのですが、二極化と言っても当然逆転劇は起こり得ます。
特に分断ラインに近い位置にいる生徒(学年でも全体の40%〜60%)に関しては、内申点の確保や本人の努力、塾などの環境要因がうまく噛み合えば、地頭的には上位40%にいなくとも、進学先としては上位40%に食い込めることはあり得ます。
しかし、昨今はそれがかなり難しくなっていると言わざるを得ないです。理由は以下の3つです。
①地頭の壁はやっぱりある
②私立無償化の影響で頑張るモチベが発生しずらい
③お尻を叩いて頑張らせることが受け入れられずらい
それぞれ解説します。
①地頭の壁はやっぱりある
まず大前提ですが、学力というのは子供のIQと相関関係が強いです。言語能力や数的処理能力、記憶力など元々の脳の構造は遺伝子で受精卵の段階である程度決まります。
だから、そもそも勉強適性が高い子とそうでない子に分断されています。勉強は遺伝要因の影響を無視して努力だけで何とかなると宗教を信じている人もいますが、決してそんなことはありません。
また、昨今のニュースで子供の学力低下が騒がれていますね。小中とも前回調査より大きくポイントを下げ、過去最低水準を記録しました。

「コロナ禍」「スマホ依存」が原因と言われがちですが、本質はそこではなく“カリキュラムの難化”です。特に今の中学のレベルは昔よりも上がっており、単なる暗記では全く許されず、思考力・応用力・判断力などが求めれれまくります。一問一答などを頑張って覚えるだけでは許されず、長い文章を読んで状況を整理し、頭で考えないと答えに辿り着けない問題も多いです。
だから、一定の地頭がない子は頑張ってもすぐに得点には繋がりません。覚えた後に得点できるまでの道のりが明らかに遠いのです。(※覚える量も段違いで、記憶力がそもそも弱すぎる人はその時点でハード。)
勉強はいずれ地頭の壁にぶつかり上限が見えますが、昔であればそれが高校生ぐらいでした。中学までなら努力で何とかなっていて、高校でドロップアウトする子が多かった。しかし、今の教育では高校範囲を中学に降ろしたり、そもそもの暗記量が大幅に増えたので、昔であれば高校で脱落していたであろう子が中学で脱落します。要するに、「ドロップアウトする時期が早まった時代」です。
もちろんこれが地頭の差から生じるリタイアなので、義務教育の内容そのものがバグっていることが問題ですが、地頭のいい生徒と地頭そこそこで努力してくれる生徒はそれでも耐久できるます。だから、落ちこぼれる生徒が半数以上いても教育は変わりません。これが学力低下の本質であり、地頭の差を実感するタイミングがかなり前倒しになっている時代の特徴とも言えます。
本当は真ん中より下の子でも、テスト問題がもう少し簡単だと脱落せずに済むんですけどね。計算基礎や暗記だけで点数が取れるようなテストなら、地頭を言い訳にせずある程度塾でケツを叩けば何とかなる子は大勢いるし、昔はそういう時代だったから今の親世代は勉強で脱落せずに済んだ人も多いはずです。
しかし、昨今の思考力重視の問題だと、計算基礎や暗記だけやらせても取れる点数は限定的で、どこかで子供自身に自分で考えて解く問題を越えさせないといけない。このタイミングで、もともと地頭水準が高い子と低い子の差が露骨に出過ぎているのです。
もちろん、現場指導をしていても、学力レンジ上位40%と下位60%のラインぐらいで地頭の壁を感じずにいられません。
理解力1つとっても、上位40%以上の子が1伝えて0.7〜1理解するのに対し、下位60%以下になると、1伝えて0.2〜0.5ぐらいしか伝わらないことなど日常茶飯事です。記憶力などの基礎スペックを比較しても、上位40%以上の子が1時間で暗記できることを、下位60%以下になると3時間以上かかったり、3時間以上かけたとて覚えられないことも平気で起こります。もちろん、覚えたことを忘却するスピードも信じられないぐらい早いです。
「指導者の教え方が悪いから理解していないのでは?」という意見もあると思うのですが、理解を必要としない単純な暗記(漢字や英単語の暗記)ですら露骨に差が開くのが現実です。
漢字を覚えさせるのが上手い指導者って何?って話で、結局は一定時間にどれだけ処理できるかという脳構造の問題を無視することなどできません。これが理解を伴う暗記であればなおさら差がつくことは言うまでも無いです。暗記ですらない読解問題とかはもっと知能差が開きます。
だから下位60%は、上位40%以上の生徒との間にある才能格差を努力と工夫で埋め合わせるしかないのですが、人間が一日に使える時間にはそもそも限界があります。学年が上がって学問の難易度が上がればますます努力でカバーしないと行けない領域が増え、時間だけでは解決できない問題も出てきます。だから、どこかで心が折れてしまう…
よって、根本的に地頭が良くない子に勉強をさせること自体がハードであり、仮に頑張らせるとしても「頑張れば上位40%以上に入れる」という前提で接するのはあまりにも残酷だと言わざるを得ないです。このように、才能と努力というのはしばしば合わせて議論されるのですが、勉強に関しては自分は以下のように考えます。
②私立無償化の影響で頑張るモチベが発生しずらい
才能格差という遺伝的に不利な条件があるとはいえ、逆転の可能性がないわけではありません。それは繰り返しで強調させてください。
しかし、昨今の社会情勢を考えた時、子供が頑張るモチベが昔に比べて発生しずらくなっているのも事実です。その代表例が「私立無償化」です。
昔であれば、金銭面の理由から公立受験を是が非でも頑張るみたいなモチベーションがありました。だから、学力的に公立の中堅校が厳しい子でも、限界まで自分を追い込んで努力するケースがありました。しかし、私立無償化で授業料がタダになった今、金銭面だけを考慮すれば、そこまで公立高校にこだわる必要がなくなりました。学費以外に発生する費用もあるので私立の方がやはり高額ですが、昔に比べて明らかにご家庭の負担は減りました。
だから、才能的に不足している分を元々自分よりも地頭がいい子の何倍も努力して頑張って埋めて六アイ以上を目指すインセンティブが子供にも大人にも生じなくなっています。
そこまでしなくても、私立専願にして中堅校を手堅く受かれば東灘や高卒就職ルートを回避できると考える人は当然出てくるからです。なお、六アイに受からないレベルの子でも某高校の特進コースなどに専願にすれば受かってしまう現状もあります。特進コースの定義は何?という話は横に置いといても、推薦で専願にすれば明らかに楽に進路を確保できてしまうわけですから、子供としても楽な道に流れるのは当然です。
だから、構造的に地頭レンジが下半分ぐらいにある子のやる気を出させることが難しくなっています。当然ですが、この子達に塾はそもそもいるのか?という話になってきます。
③お尻を叩いて頑張らせることが受け入れられずらい
下位60%の逆転が難しくなった背景として、昨今の「褒めて伸ばす」等のサイエンスやエビデンスのない誤った指導論を信じる人の増殖と、それに伴い、子供を厳しく育てることが出来なくなっている公教育の問題があります。
ぶっちゃけると、中学の勉強ごときであれば、学習障害や境界知能など明らかにIQ値に難がある場合を除けばゴリ押しでも改善します。特に六アイまででいいのなら、全てを勉強に捧げるぐらいの覚悟があれば下位60%までぐらいならチャンスはあるんです。
しかし、今の教育はケツ叩いて厳しくすることを許しません。
何かあればすぐに「〇〇ハラスメント」になるし、お子様ファーストにしないと一部のモンペが学校にクレームを入れてしまいます。そして、SNSなどであることないことを拡散されるリスクも大きく、先生方も厳しくするモチベがありません。
ハッキリ言えば、「リスクを負ってまで激ヤバな人間性に育ってしまった他人の子供を改善するメリットなどない」のです。せめて厳しく叱ってもお咎めなしって話なら、熱い気持ちを持った先生は叱ってくれますが、今の時代はそれを許さないですよね。当然ですが塾業界全体もそう言う流れになっていて、自分自身も子供を叱責したり厳しく当たったりすることはまずありません。当然のように、追い込んで学力を上げまくるみたいな方針も取れません。
だからもう、地頭水準が一定以上(上位40%)でそもそも勉強のことで注意が少なく済む子しかまともに教育できなくなっています。批判を覚悟で言えば、通知表でオール3だとかなり厳しく、通知表に2がある子はもうお手上げです。この層は、勉強以前の性根の部分に何かしら課題があり、それが勉強面にも悪影響を与えています。だから生活習慣的な部分や舐め切った考え方から注意して変えるしかないのですが、褒めて伸ばすでは無理です。
だから、最低限3とか4が半々ぐらいで混ざっている感じの子じゃないとそもそ勉強をテクニカルに教えて点数を上げるという競技に参加させられないです。それが全体の上位40%程度です。
しかし学年上位40%に入っており、勉強をする上での最低限の必要条件を満たしている子でも、受験的にはやっぱり学習塾が必要です。特に高校受験をハックする際に、勉強方法や教材選定、進捗管理などは子供任せにしては上手くいかない上、周りが塾通いだと情報戦で差がつくからです。そいいう意味では、塾を利用するメリットはそこにあります。
ただ、下位60%は地頭水準がそもそも下なので、その差を努力で埋めるしかないという不利な条件からスタートします。しかし、ここでケツを叩けない時代なので、残念ながら差が埋まることはありません。だから今の時代は、上と下で子供が分断されていると言わざるを得ないです。
しかも学力下位層は、勉強以前にそもそもの生き方や考え方に何かしら課題があることも多いです。それゆえ生活習慣などもグチャグチャになりやすく、何かしらその子の内面の課題に踏み込まないと勉強面をよくすることはできません。
しかし、怒られることに慣れていないので、何か少しでも注意すればその瞬間にドロップアウト(退塾)されてしまう。ゆえに塾もゆるゆるの指導しか出来ず、結果的に成績も上がりません。昔であればせめて真ん中か真ん中より少し下であれば救済できたのですが、今はもう真ん中の子は下のレンジに引き込まれます。
総括:中学生の下位60%の生徒の逆転はないのか?まとめ
最後に、本記事のまとめを残しておきます。
全体の主旨
- 学力で中学生は上位40%と下位60%に明確に分断されており、格差は年次とともに拡大。
- 下位60%からの逆転は非常に難しくなっているのが現実。
下位60%の逆転が厳しい3つの理由
- 地頭(IQ・記憶力・処理速度など)の壁
- 勉強はIQと強く関連しており、努力だけでは限界がある。
- 教科書の難化や思考力重視の問題が増え、努力が点に繋がりにくい構造に。
- 暗記力や読解力、理解力などで圧倒的な差がある。
- 私立無償化により、頑張るインセンティブが弱体化
- 昔は「お金のために公立合格を目指す」動機があった。
- 今は私立でも無償化されるため、あえて厳しい道を選ぶ理由がない。
- 中堅私立に専願で進学できる道があるため、あえて公立上位校を狙わない。
- 厳しく育てる教育が否定される風潮
- 「褒めて伸ばす」「お子様ファースト」な教育観が主流。
- 厳しい指導はハラスメント扱いされるリスクがあり、先生・塾講師が踏み込めない。
- 叱責や指導に耐えられない生徒も多く、改善が不可能に近い層が増えている。
その他の補足ポイント
- 通知表で「2」があるような生徒はかなり厳しいライン。
- 勉強面の課題だけでなく、生活習慣や考え方そのものに問題がある子も多い。
- 上位40%に入っていても、塾での指導や戦略が必要であり、情報戦で差がつく。
- 中間層の生徒も、今は下位層に引きずられて落ちやすい時代。
