兵庫県第一学区の公立受験では、学年の中でも上位40%以上かそれ以下かで進路選びが大きく変わってきます。
なぜなら、六アイや須磨翔風など中堅校が偏差値53程度で、これがおおよそ上位40%以上の生徒と重なるからです。この水準を下回ると、公立であれば東灘や専門学科の学校(科技など)しか進路がありません。それが嫌なら私立です。
でもこうなると、下位60%以下の学力層には必ず以下のような生徒が出てきます。
「六アイには受からないが東灘や高卒は嫌なので私立専願!」
この層は、内申点と実力が足らず、公立中堅校に届かない層です。言い方を変えれば、六アイや須磨翔風に行きたくても実力不足でいけない子です。偏差値50以下の下位層だと思ってください。
この層の心理であるあるなのは、「公立なら最低でも六アイ以上じゃないと嫌。東灘は最底辺だから恥ずかしくてプライドが許さない。かと言って高卒で働くのも嫌だから専門学科は無理。」です。
そして、この層の心理に上手く呼応しているのが”私立専願と私立無償化のダブルコンボ”です。
レベルにもよりますが、私立専願であれば、オール3の内申でも特進コースなどに受かったりします。推薦もらった時点でほぼ合格確定なので、本番の入試は名前さえ書けば受かる。だから、推薦基準を満たすレベルまでの努力で済みます。
もちろん、その子の地頭にもよりますが、学習障害や境界知能でなければ、それなりに程々に緩く勉強させれば済む程度の努力です。
これで東灘や高卒ルートを避ける事ができる上、無償化で金銭的な負担が最小化されているわけなので、下位グループがそこに飛びつかないわけがないです。
で、それ自体はお好きにどうぞなのですが、塾として考えることは、この層の塾通いにどう対処していくのか?って事です。
そこで本記事では、「六アイには受からないが東灘や高卒は嫌なので私立専願!の塾通いの価値」というテーマで書いていきます。
予め言っておきますが、価値は本来顧客が決めるものであることは分かっています。しかし、概ねこんな感じの大衆心理になるんじゃないか?というパターン分けは出来ます。
正直なところ、下位50%以下の低学力層の塾通いというのは、失敗するケースが多いです。その理由が、目的と手段の不一致であったり、全体像が見えていないことによるミスジャッジがあります。それらを避けるための参考情報程度だと思ってお読みください。
大前提:下位60%以下の生徒を抱えるご家庭の分類
まず最初に、下位60%以下の学力のお子さんをお持ちのご家庭を分類します。
この層というのは、原則として六アイや須磨翔風など公立中堅校に行くことができないレベルです。レベルに差がありますが、六アイのデッドラインを割り込んでいる子の集合だと思ってください。
そして、この層の保護者の価値観をベースに自分が考えられる範囲で場合分けをすると、以下のようになります。
①東灘や高卒ルートを受け入れている
②六アイに特攻受験させるつもり(ダメなら東灘or併願先の私立を許容)
③六アイ(須磨翔風)以下になるなら私立専願
そして、学習塾通いの意味や満足度を考えたら、大体以下のようなケースに分類されます。
東灘や高卒ルートを受け入れている
この場合、学習塾に通うメリットもそれなりにあり、塾通いに対する満足度も高くなりやすいです。
そもそも自分の子供に勉強適性がないことを保護者自身も受け止めており、それに見合った進路を現実的に選んでいるからです。
学習塾も、その子にあった進路指導を合理的に行えばいいので、保護者の無茶振りに晒されることなく平和的に関係を築くことができます。
なお、この層の塾選びは、個別でも少人数制の塾でもどちらでも上手くいきやすいです。ただ、レベル的には個別でしっかり見てもらうべきです。
東灘や専門学科であれば、オール3ぐらいの内申点があれば、本番で200〜250点ぐらい取れば受かるので、そこまでガチの受験対策は不要です。科目数が多いので全教科型の塾がいいのですが、集団塾だとレベル的にきついので、高額ですが個別で全部受講したりすることになります。
いずれにせよ、本人の能力以上のことを保護者が求める毒親パターンにハマっていないので、親と子供、親と塾、塾と子供の三者の関係がこじれずらく、精神衛生的にも悪くありません。
この事は、以下の記事でも書いています。
しかし、仮に東灘や高卒ルートを受け入れると言っても、東灘や高卒ルートですら止まれない子も一定数います。
定期テストなどで200点を割り込むタイプの子で、検査すれば学習障害や境界知能と診断される可能性が高い子です。仮にそうでなくても、IQが中央値からかなり下にあるでしょう。
こうなると、最底辺の東灘ですら不合格になる可能性も出ます。
よって、境界知能やその疑いのある生徒の塾通いとなると、「ワンチャン東灘ですら受からず、最後は滑り止めにの私立(もちろん偏差値は相当低く、その学校の一番下のコース)になるかもしれない」ことを保護者は受け入れておく必要があります。
境界知能やその付近の子達は、塾に行ってもそうなるリスクがあるという点では、六アイ以下のレベルの中でも最底辺にいるため、親も期待値の下限が相当低いことを受け止めておかなければいけません。
ここで受け止めができず、「塾に入れてるんだから最低でも東灘は行けないなら金の無駄」的な価値観だと、塾との関係が拗れたり、親子関係が拗れたりしてカオスな受験になることが想定されます。
六アイに特攻受験させるつもり(ダメなら東灘or併願先の私立を許容)
2つ目のケースは、明らかに学力不足なのに、六アイ(須磨翔風)に特攻受験させるつもりのご家庭について。
大前提ですが、六アイや須磨翔風は、内申点が一定を下回ればほぼ間違えなく落ちます。理解されていない人も多いですが、第一学区の中堅校の受験は毎年そうで、内申点で4以上が4つはつかないと厳しいです。(※しかもそのうち2つは副教科で。)
よって、この時点で内申点の不足によって勝利条件を満たせず、六アイを断念するしかないレベルの子が出てきます。学力で見ても、それが下位60%に密集するわけです。
こういう子は、公立であれば東灘か高卒ルートで専門学科ぐらいしか現実的な選択肢がありません。
しかし、東灘と高卒ルートは絶対に嫌なので、最後の最後まで六アイや須磨翔風を口にして、周囲の反対を押し切って「特攻受験」をすることになります。もちろん、まず間違えなく落ちます。
さあ、問題なのはこういう物分かりの悪いタイプのご家庭の受験を受け持った時、学習塾への満足度がどうなるのか?ということです。
当然ですが、①合格できた場合と②不合格だった場合で話が変わるでしょう。
①合格できた場合
まず、大穴で受かってしまうケース。
可能性としては極めて低く、勝利で言えば10%を割り込むような勝負で、10人中1人ぐらい受かる奇跡が起こればいいです。
でも、非常に数が少ないですが、毎年誰かがその奇跡を起こすのが受験です。
この場合、奇跡が起これば学習塾への満足度はどの属性の保護者よりも高いものになります。なんなら、神戸高校に受からせるよりも感謝されるレベルで、まるで神様のように崇められます。
実際、自塾でこの逆転が起こってしまい、親御さんから感動の電話をいただいた経験もあります。
しかし、この子は元々の地頭がよく、生活態度が悪く内申が付かなかただけで、学力や知能水準で見れば学年の中でもそこまで下ってわけでもない子でした。要するに、ワンチャンある子でした。
ただ、こういうのは外れ値で、大半の子は受かりません。根本的に地頭が悪く、内申もないのであれば、何一つとして受かる見込みがないんですから。
よって、このケースは狙って起こせるものではなく、運よく起こってしまった完全なる外れ値事例と思ってください。
このような成功事例に期待して入塾を決めたりすると、期待と現実のギャップが大きく、学習塾通いに対する不満の方が大きくなりやすいです。登場人物が全員不幸になるのでやめてください。
②不合格の場合
原則として、学年下位60%以下の六アイ・須磨翔風受験など失敗します。
保護者さんは分かっていないかもしれませんが、全くもって学力が足りておらず、分不相応な目標でしかないです。頑張れば行けると勘違いしている人も多いですが、この層に必要な頑張りは、本人と親が思う10倍以上はあるでしょう。
正直、平均スレスレぐらいの子であれば、内申が少し足りないぐらいならなんとかなるケースもありますよ。
でも、内申点がオール3しかなく、普段のテストも平均以下の子とかは99.9999%無理です。これを下回る「評定に2がある・定期テストでも250点以下」とかになってこれば、六アイ志望など遠すぎです。
自分はこれ以上ハッキリ言うのが怖いので、代わりにこの方に厳しく現実を伝えてもらうとこうなります。

が、しかし、このような状況を理解されず、あるいは理解しても受け止めない保護者が一定数いて、無謀な塾通いをします。
当然ですが、この層の塾通いは登場人物全員地獄です。
まず大前提、特攻しても90%以上の確率で落ちます。そもそも、子供のスペックと志望校が乖離しすぎており、実現可能な目標でもなんでもありません。親のエゴから出発した、ただの幻想です。
しかし、保護者としては課金している以上、塾にはあれこれ言いたくなるし、その権利は当然あります。
ただ、クレームしようが癇癪起こそうが、子供の地頭が良くなるわけはないです。勤勉性がない子であれば、人が変わったように勉強するわけでもないです。
親から見ても、見ていて非常にイライラする生き物が目の前にただ存在するだけのこと。これは塾も同じです。明らかに目標と現実が乖離しているのに、どう考えてもその差を埋めようと必死になる様子がない子です。
冷静に考えれば、こんな風に理想だけは一丁前に高いけど、それに見合った行動をしない人間なんてこの世に腐るほどいます。有象無象です。
だけど、その有象無象が自分の子供ってなると話が変わってくるのが親御さんの心理ですが、そんなこと言われてもどうしようもないです。そういう子なのですから。
少なくとも勉強という世界では、公立中堅校という大して高くもない目標すら届く見込みの薄い子です。ほとんどの場合、勉強以外でも普段の素行などにも問題もあるはずです。それが勉強ができないこととも少なからずリンクしているはずです。
でもそれはその子の人間性を全否定するものではないし、たまたま知能競技との相性が悪かっただけの話。他のことで何か向いていることや光るものがあるかもしれない。親はそこに目を向けなきゃいけなくて、「何が何でも勉強で〇〇!」みたいにこじれている場合ではないのです。
だから大前提、「下位60%以下の知能水準の子に、偏差値53以上の公立高校を受からせたい」という出発点が無茶振りの始まりなのです。
もちろんそこから逆転する子もいるけど、確率は低いし、下位0%に近づけば近づくほど逆転は絶望的になると言わざるを得ません。努力さえすれば全員にチャンスがあるというわけでもありません。その努力ですら、遺伝要因の影響を6割受けると言われており、後天的に解決しずらいです。
だから塾は、こういうズレの大きすぎる家庭を面談などで弾くフィルター機能が極めて重要になります。
これで受かるのは、内申点は異常に高い子か、サボり散らかしただけで実は地頭悪くなかった子だけなんです。そのどちらにもハマらない子は受かりません。
よって、特攻しても順当に不合格になり、結局は第二志望で書いた東灘に行くか、併願先の私立に行くことになります。
でも、生徒のレベルによっては、東灘や併願先の私立であれば、別に塾通いに課金しなくても受かっていたであろう子なんて山ほどいます。特に私立の併願先なんて滑り止めですから、落ちるわけもないんですから。
となると、この層は塾通いに極めて満足しずらい属性であることが容易に想像できます。
もともと、不合格になるリスクが高いことを承知の上で塾通いを決断していただいた家庭や、「頑張ったことに意味がある!」的な価値観で塾通いを評価していただける家庭以外は満足していただくことが根本的に難しすぎるのです。
「下位60%以下の学力水準なのに、六アイ以上」という構図そのものがまあまあ無理ゲーで、この中で本当に数%だけがその未来を勝ち取れるだけです。
そして、狙って逆転させられるのは、知能格差を埋める分の物量をやりこんでくれる子だけです。グダグダしていたり、「自分なりに頑張りました」等のふざけた発言をしている程度では全くもって無理です。
そういう子に期待して塾に課金するケースが、塾が無駄だったと最終的に評価されるご家庭に非常に多いです。
六アイ(須磨翔風)以下になるなら私立専願
さあ、最後は私立専願になる子の塾通いです。
正直、ここが最も塾通いの価値について意見が分かれてしまう層です。
まず大前提、公立受験をする子であれば、受かるにせよ落ちるにせよ、それなりにサポートが必要です。だから、特攻する子でもそれなりに塾を必要としたりします。
しかし、一部の上位校を除いた私立専願であれば、推薦さえ貰えば名前を書くだけでほぼ合格になるような受験しかしていません。今回は学年の下位60%の話をしていますので、もちろん私立の上位校の話ではありません。
さあ、こうなった時、学習塾に通う価値は一体どこにあるんだろう?と、どうしても経営者としては考えてしまいます。
名前さえ書けば受かる学校に行くのに、毎月何万も塾に課金…
何この意味不明な罰金制度?と思いませんか?
これは塾の経営者である自分もそう思うし、何を大義名分に月謝を請求しているのか分からなくなってきます。形式的には勉強を教えたことに対する対価なのですが、ゴールがBF高校で、塾なくても受かる可能性が高いところなんですからね…
こうなってくると、保護者さんは状況を改めて整理して、塾選びをする必要があります。そもそも論、下位60%以下で私立専願になるような子の場合、「塾に行く必要あるっけ?」から考えた方がいいかもしれません。
まず、現時点でオール3ぐらいで250点チョイとかその辺なら、よほどしんどい思いをしないと六アイ以上にはいけないです。そうなった時、公立は東灘か専門学科の高卒ルートです。それが嫌なら私立専願です。
で、そのぐらいの点数なら、学校によっては専願にすれば特進コースなどに受かってしまいます。専願にすると偏差値以上のコースにチートして受かるので、変に六アイ落ちて併願先に行くよりも最終ゴールがマシになります。
レベル的には、
六アイ > 併願で真ん中のコース=専願で特進 > 東灘 >私立専願で一番下のコース
ぐらいが学力の実際の序列でしょう。
ただ、私立専願で滑り止めに使われるような中堅私立の特進を受けるなら、今の成績のままでも普通に受かります。塾を辞めても受かるかもしれないし、現状維持してくれる最低限の課金で済みます。
これなら、塾通いのあり方ってだいぶ変わってくると思います。
少なくとも、ウチのように公立対策をメインにやるような塾と相性が悪いこともわかるし、大手塾で集団授業受けるとかもほぼ意味がないです。
塾を辞めてもいいかもしれないし、個別でゆるくやらせれば何とかなります。だから、それ以上の負荷を求める塾は不満になりやすいし、課金額が大きい塾もモヤモヤすると思います。
唯一負荷をかける意味があるのは、私立専願でも一番下のコースを回避するケースでしょう。5教科で200点の子を何とか250点ぐらいにして評定2を無くし、せめてオール3にして真ん中ぐらいのコースに上げさせるとか。
こうなると、通塾回数が増えてしまうので、課金額は必然的に上がってしまうのですが、それは納得してもらうしかないです。
あとは、支払う金額とそこで期待できる現実的な上げ幅に親の価値観がマッチするかどうかって話です。ここでも、「そんなレベルの低い高校に行くのにお金なんて払いたくない!」等の意見があると、コミコミで色々とこじれます。
総括:「六アイには受からないが東灘や高卒は嫌なので私立専願!」の塾通い
最後に、本記事のまとめを残しておきます。
- 前提条件
- 六アイや須磨翔風(偏差値53程度)=上位40%以上が進学可能ライン。
- 下位60%以下は原則として公立中堅校に届かず、選択肢は東灘や専門学科か私立専願。
- 家庭の分類(下位60%層)
① 東灘や高卒ルートを受け入れる家庭
② 六アイに特攻(不合格なら東灘・私立を許容)
③ 六アイ以下なら私立専願 - ① 東灘・高卒ルート容認型
- 現実的で塾との関係も良好。
- 個別指導などで最低限サポートすれば合格可能。
- ただし境界知能レベルの子は東灘すら厳しい可能性あり。
- ② 六アイ特攻型
- 合格は奇跡的(確率1割以下)。
- 大半は不合格で東灘や私立に流れる。
- 親の無茶な期待で塾・家庭関係がこじれやすい。
- 本人の地頭や内申不足が根本要因で、塾では救えないケース多数。
- ③ 私立専願型
- 推薦を得れば名前を書くだけで合格できるケースが大半。
- 公立対策型の塾とは相性が悪く、塾に通う意味が薄い。
- 最低限の内申維持(評定2を消す→オール3にする等)で真ん中コースを狙うなら塾に一定の価値あり。
- 「塾費用に見合うかどうか」は親の価値観次第。
- 総括
- 下位60%層における塾通いは、目的と手段の不一致で失敗しやすい。
- 公立中堅校合格はほぼ無理ゲー、私立専願なら塾不要のケースが多い。
- 塾の価値は「保護者の期待値」と「現実の学力水準」の整合性に大きく左右される。
